2019年02月06日
相続法の改正点(配偶者居住権)について
名古屋栄の中日綜合法律事務所の弁護士の熊谷考人です。
今回から、相続法改正点について、何回かに分けて、解説をしたいと思います。
<配偶者の居住権の創設>
被相続人の持ち家に住んでいる配偶者について、被相続人亡き後の居住を保護するため、
「配偶者短期居住権」と「配偶者居住権」の2つの権利が創設されました。
⑴ 配偶者短期居住権
配偶者短期居住権とは、相続開始時に被相続人の持ち家に無償で住んでいた配偶者は、
一定期間、その家を無償で使用することができるとする権利です。
現行では、使用貸借の合意を推定するという理屈により、
相続開始から少なくとも遺産分割終了までの間、
同居相続人(配偶者を含む)の居住を保護する判例の取扱いが確立していました。
しかし、この取扱いの場合、合意を推定できないケース(住宅が第三者に相続された場合など)では、
居住権を保護できないことから、今回新たな権利が創設されることになりました。
配偶者短期居住権は、相続開始により当然に発生します。
そのため、配偶者居住権とは異なり、被相続人の遺言などであらかじめ定めておく必要はありません。
存続期間は、原則として、その後の遺産分割によりその住宅(居住建物)を誰が相続するかが確定した日、
または、相続開始時から6ヵ月が経過する日のいずれか遅い日までとされています。
したがって、最短でも相続開始時から6ヵ月が経過する日までの間は、
配偶者短期居住権に基づいて住み続けることができることになります。
権利の内容は、配偶者居住権より限定されています。
配偶者自身が住宅を使用(居住)するほか、
住宅を取得した者の承諾を得て第三者に使用させることもできますが、
配偶者居住権とは異なり、第三者への賃貸などの収益のために利用することは認められていません。
また、配偶者短期居住権が発生する範囲は、配偶者が無償で使用していた部分に限られます。
例えば被相続人の生前、2階建ての戸建ての1階部分を店舗、
2階部分を住居として使用していた場合、配偶者短期居住権が発生するのは2階部分のみとなります。
また、配偶者は賃料相当額の経済的利益を得ていることになりますが、
遺産分割時の計算上は考慮されないと考えられます。
つまり、配偶者の遺産の取り分(具体的相続分)を計算する際に算入されないので、
配偶者は他の財産の取り分を減らすことなく、住宅に住み続けられることになると思われます。
⑵ 配偶者居住権(長期居住権)
配偶者居住権とは、相続開始時に被相続人の持ち家に住んでいた配偶者は、
原則としてその終身の間、その家を無償で使用・収益できるとする権利です。
現行では、遺産分割終了後も同居相続人の居住を保護する方法として、
その住宅自体(所有権)を相続させることが考えられます。
しかしこの場合、一般的に不動産の評価額が高額となることで住宅以外の財産を取得できず、
結局、生活資金確保のために住宅を手放さざるを得なくなるケースがみられました。
改正後は、配偶者居住権を利用することで、例えば住宅を子に相続させ、
配偶者には配偶者居住権を取得させるというように、
配偶者の居住を保護しつつ他の財産も取得させることができるようになります。
配偶者居住権は、相続開始により当然発生する配偶者短期居住権とは異なり、
遺贈(遺言による贈与)または遺産分割によって取得させる必要があります。
後日の紛争を避けるためには、予め遺言書を作成しておくことが有益であると思われます。
存続期間は、原則として配偶者の終身の間ですが、遺言や遺産分割の定めによって、
より短い期間とすることもできます。
つまり、特に定めがない限り、配偶者の終身の間となるのです。
権利の内容としては、住宅の使用(居住)のほか、第三者への賃貸など収益に利用することもできますが、
原則として、従前と同じ利用方法である必要があります。
したがって、住宅のうち、元々、店舗や賃貸物件として利用していた部分(収益部分)については、
配偶者居住権の発生後も引き続きそのまま利用することができます。
配偶者居住権は、配偶者短期居住権と異なり住宅の全ての部分に及びます。
したがって、前記の例では、配偶者は2階の居住部分だけでなく、
1階の店舗部分についても配偶者居住権を取得することができます。
また、配偶者居住権は、登記(占有は不可)により、
相続人以外の第三者(相続人から住宅を譲り受けた者など)に権利を主張できます。
さらに配偶者は住宅の所有者に対して、配偶者居住権の設定登記の手続きをするよう請求できます(登記請求権)。
遺産分割時の扱いは配偶者短期居住権と異なり、
配偶者は、配偶者居住権の財産的価値相当額を相続したものと扱われます。
つまり、遺産分割において配偶者の遺産の取り分(具体的相続分)を計算する際には、
配偶者が配偶者居住権を特別受益として取得したものとみなして計算することになります。
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