2019年02月12日
相続法の改正点(遺産分割)
名古屋栄の中日綜合法律事務所の弁護士の熊谷考人です。
今回は、相続法改正点(遺産分割)について、解説をしたいと思います。
⑴ 配偶者保護のための方策
現行の民法では、被相続人から遺贈や生前贈与により特別な利益(特別受益)を得た相続人がいる場合、
相続人の間の公平のため、遺産分割においていったん遺産に持ち戻して、
それぞれの相続人の取り分を計算するのが原則です(特別受益の持戻し)。
つまり、「原則として遺産分割の計算の対象に含める」ことになっているのです。
例えば、被相続人がその生前、配偶者と一緒に住んでいる家を配偶者に贈与していた場合、
その家は原則として遺産に持ち戻されるため、
預貯金など家以外の遺産についての配偶者の取り分は、その分少なくなってしまいます。
改正法では、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、
居住不動産(配偶者居住権を含む)が遺贈・贈与された場合に限り、
遺産分割においてこの持戻し免除の意思表示を「推定」し、
原則として遺産に持ち戻す必要はない(計算の対象外とする)ものとされました。
つまり、配偶者への居住用の家や敷地の贈与等に限って、
現行の民法での原則と例外を逆転させ、「原則として遺産分割の計算の対象に含めない」扱いとしているのです。
⑵ 預貯金の仮払い制度の創設等
複数の相続人が共同相続した預貯金の取扱いについて、最高裁は近年判例を変更し、
遺産分割の対象となると判断しました。
そのため、遺産分割前の個々の相続人への払戻しは、相続人全員の同意がない限り認められません。
払戻し請求を受ける金融機関にとっては取扱いが明確になるメリットはありますが、
実務上、相続債務の弁済や相続人の生活費、葬儀費用などの緊急の払戻し需要に応じるための、
いわゆる「便宜払い」が困難になったため、そのような需要への法的な手当てが求められていました。
改正法では、共同相続された預貯金の遺産分割前の払戻しを認める制度として、
①家庭裁判所の手続き(保全処分)を利用する方法と、
②裁判所外での相続人単独での払戻しを認める方法の2つが創設されました。
①の方法は、家庭裁判所に遺産分割の審判または調停を申し立てた上で、
預貯金の仮払いの申立てをする必要があり、
②と比較するとコストや時間がかかるというデメリットがあります。
また、相続債務の弁済のためなど、仮払いの必要性があることの疎明
(一応確からしいという程度の証明)が必要になります。
他方で、仮払いの金額に上限は設けられておらず、申立て額の範囲内で裁判所が必要と判断すれば、
特定の預貯金債権の全部を取得することもできるため、
②の上限を超える金額の払戻しが必要な場合に適していると考えられます。
②の方法は、相続人が金融機関の窓口で直接払戻しを求める方法です。
仮払いの必要性②の方法は、相続人が金融機関の窓口で直接払戻しを求める方法です。
仮払いの必要性も要求されず、裁判手続きも不要なため、①に比べて簡便です。
他方で、仮払いの金額に上限が設けられており、
具体的には、「相続開始時の預貯金債権の額(口座基準)×3分の1×(仮払いを求める相続人の)法定相続分」
かつ「債務者(金融機関)ごと(複数の口座がある場合は合算)に法務省令で定める額」が上限となります。
「法務省令で定める額」は現時点では明らかではありませんが、
これまでの検討の経緯から、100万円台で定められるのではないかと思われます。
なお、仮払いされた預貯金は、その相続人が遺産分割(一部分割)により
取得したものとみなされます(遺産分割の際に具体的相続分から引かれます)。
利用方法としては、葬儀費用など特に緊急性が高い費用については時間のかからない②の方法で払戻しを受け、
緊急性がそこまで高くない相続人の生活費用については金額に上限がない①の方法で払戻しを受ける、
といった使い分けが考えられます。
なお、この払戻しの請求権自体を譲渡・差押え・相殺できるかどうかについては否定的に考えられています。
また、相続人から預貯金の持ち分を譲り受けた債権者や差し押さえをした債権者については、
この払戻し請求はできないと考えられているようです。
⑶ 遺産分割前に処分された財産の扱い
遺産の分割前に遺産の全部又は一部が処分された場合、現行の実務では、
その処分された遺産については遺産分割の対象にならなりません(現に残っている遺産のみを分割します)。
特に処分した者が共同相続人である場合、その相続人は遺産分割において処分で得た利益分を引かれることなく、
他の相続人と同じ条件で遺産の分け前にあずかることができ、結果的に他の相続人より多くの遺産をもらえるので、
不公平が生じることになります。
改正法では、遺産分割前に処分された財産について、
処分をした相続人本人を除く共同相続人全員の同意があれば、
遺産分割時になお遺産として存在するものとみなすこととされました。
これにより、より公平な分割結果が実現できることが期待されるものの、
他方で、遺産分割の前提となる遺産の範囲について、
処分された財産があるかどうかの審理が必要となるため、
遺産分割手続きが長期化・複雑化する懸念も指摘されているところです。
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